『川に流れ……』

Twitter300字ss テーマ:流れる/2022.09.03.

 剣を取り落とした男は、気付けば、赤い川に浸っていた。
 さらさらと、流れる逝くのは、血か、罪か。
 いや、罪が流れるものか。仕事とはいえ、いくら斬ったか、数さえ記憶に無い。そんなものが、己の命ひとつで易々やすやすと流れて良いものか。
 流した血、流れる血。男には、その赤はむしろ、留まることの無い己の罪の視覚化に思える。

 いや、しっかりと、流してくれなければ困るのだよ。
 赤い川、忘却の川を司る者は、独り言つ。
 良きも、悪しきも。
 血も、罪も。
 記憶さえも、全て流してから、ようやく、川の向こうへ行く。

 一人から流れ落ちるのに、どれほど時がかかれども、全て。

 そして、いつか皆、真っさらになった魂で、再び、罪深き現世へ生まれ落ちるのだ。

『川に流れ……』

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