毎月300字小説企画 テーマ:歯/2026.06.06.
白い腕の歯形は夫の祝福であり妻にとっての呪い。
もとより家ばかりが望んだ婚姻。けれども彼らとて知らなかったろう。
広大な森の領地と大きな城館に住むのは夜の住人たち。
侍女が恭しく杯を差し出す。真っ赤で濃厚な臭いにすら慣れつつある。
おぞましくとも、飲まねば生きてはいけない。
彼らなりに主人の妻に気を遣い、最上級の新鮮な血を提供している。己で血を吸いに行かないでも良いように。
感謝をせねば……
それも、彼女の腹に子が宿って限界に達してしまった。
こつり、と、蝋燭を倒す。
ある日、森が燃えた。轟く炎は人を遠ざける。
ようやく収まって人々が様子を見に行ったとき、人の気配は無かった。ただ、生活痕と灰が舞うばかり。


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