『染めるは誰がために』

Twitter300字ss テーマ:洗う/2022.07.02.
この布を真っ赤に染めることができたなら、女は愛しい彼に嫁ぐことができる。
けれども、その布は。
最後に仕上げようとすると、するりと色が抜ける。
染め上げ、綺麗に洗い、色が染みていることが、布染めなのに。
幾度、染めても、最後の最後で、色は洗い流され、真っ白な布地に戻る。
それでも、彼女は染める。愛しい者の元へ嫁ぐ日を夢見て。

魔女が嗤う。
あの男の心に、あんたは染みていないのさ。
恋の赤にも、恨みの黒にすら。だから、その布は白く、洗い流される。

女は布を染め続ける。
ある日、男の婚姻の報が遠くから届くまで。

そうして、布は真っ赤に染まった。彼女の血と命の色で。
それだけは、洗い流されることがなく、どす黒く。

『染めるは誰がために』

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