『椅子の名』

毎月300字小説企画 テーマ:椅子/2024.05.04.

 彼はただ、そこに座ってだけいなさい、と言われた。
 その椅子に座っていれば、勝手に食事が出る。医師が来る。教師が来る。おもちゃも持ってこられる。
けれども、それはひどく、退屈だった。

 かわいらしいお姫様が嫁いで来た。
 お姫様と過ごす時間は楽しかったけれど、やはり、何かが足りない、と思い始めた。
 言われたとおりに座っているだけではない、何かをしよう、と思い立った。

 その椅子に座っている者は悪だ、と、誰かが言った。
それは世の中に一気に広まり、彼は、追い立てられて、別の椅子に座らされた。

 思い立ったことを、始める直前に。
 玉座という名の椅子から、監獄という名の椅子へ。

  歴史は、それに「革命」という名を与えた。

2024年05月04日 『毎月300字小説企画』

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