Twitter300字ss テーマ:手/2022.06.04.
伸ばされる手を夢に見る。日に日に近づいてくる。この身に届くのに、あと幾日だろう。
あれは若くして死した妻の手だ、と、気がついた。
昔のことだ。
死の床で、彼女は私を求めるように手を伸ばしていたという。
伝聞だ。仕事の多忙にかまけて、私はその姿を見ることは無かった。
彼女は、無情を恨んでいたのか。
故に、ついには私を黄泉へ落とそうと手を伸ばしているのか。
異論を唱える資格は、私には無い。
むしろ、すでに病床についた身には遅すぎる。
彼女の手を自らとることが、わずかな贖罪となるのか、否か。
老人は、息を引き取った。
葬儀の参列者は皆、愛妻と再会したのだろう、と語り合った。
それほどに、最期の表情は穏やかだった。
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