『ある伯爵夫人』

　さあ、今日はどの子にしましょうか。

　豪奢なドレスを纏った女は、そんな目でじっくりと、奴隷市場を物色している。
　少女は少しばかり気にしつつ、己には無縁のこと、と流そうと努力している。
　痩せこけた手足。さしてよくない器量。動かない表情。
　愛玩にも労働にも向かない自分の値は、この市場では皆無に等しい。

　だから、まさか、その女が自分を購うなど……
　ああ、そうだ。
　　女の血で美しくある女性の噂が……

　違った。
「だって、こんなに磨き甲斐のある子、滅多にいなくてよ」
　血肉も器量も、知識さえ。素から作れる娘が良い、と女は言った。

　後に少女は、彼女を義母と呼び、美しき娘となり、伯爵夫人を継ぐ。

　さあ、今日はどの子を、買いましょうか。

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