◆小説◆果て無き宇宙への旅短編

果て無き宇宙への旅

~ある探検隊船長の独白~
First Online up 2000/10/08

 遙かな年月をかけて、我々は旅をした。

 星々の光を眺めながら、我々の宇宙船スペースシップは進んでいた。なかでも当面の目標と定められた恒星は、いつになく美しく輝いていた。
 赤く、眩しく、煌々こうこうと――――

 三十五世紀の開拓地フロンティア、外宇宙へむけて、第十三回恒星間探検隊は派遣された。光より速く進み、かつては理論上の存在でしかなかった亜空間を潜り、見上げるための光でしかなかったものを、間近で見て、直接に触れるために、我々は旅立ったのだ。
 月面都市の完成から十三世紀の間、人類が太陽系から出ることは、ついに無かった。それが二世紀ほど前から、それまでの埋め合わせをするように、次々と、名前すら仮称でしかなかった多くの恒星系に出会った。
 コロンブスへ繋がる大航海時代よろしく、莫大な費用のかかる恒星間探検隊は国家や大企業によって支援され、結成もついに十三回を数えた。その成果は、支援者を満足させて、まだ釣りがくるほどの盛況であった。
 我々は宇宙の果てまでも行くことができる。
 そのはずだった。
 少なくとも、我々はそうであると信じて、十三回目の探検へと出立した。

 世界各地から集められた優秀な航宙技師たち、と言えば聞こえはよい。寄せ集めの船員たち二百名の顔と名前はすぐに覚えるなどということは、不可能でなくとも難しい。だから、
「船長!」
 と呼びかけてきた船員の名も、私はとっさに思い出せなかった。だが、それでも叱りつけることは出来る。
「なんだ、騒々しい。
 そろそろ目標地へつく予定時刻だ。指定位置につかないか」
「それが……観測部からの報告ですと、その目的の恒星が見当たらない、と」
「なにを馬鹿な」
 私は彼を鼻先でせせら笑い、小さく開いた窓へ歩み寄った。
「何が見当たらない、だ。
 ほら、君、あの光が我々の目的とする恒星だ。あと亜空間跳躍ワープをほんの一回、するだけで良い距離だ」
 一際強く、眩しく輝く星を、私は指し示した。
 数億光年も離れた地球や月からも見える恒星である。あとほんの十数光年の位置に近づいて、見えないはずがない。
「承知しております。
 しかし、観測部の報告では、目的地点に観測できる質量が極めてゼロに近い、と……」
 報告を、片手を挙げて遮る。
「わかった、わかった。とにかく、その場へ行けば分かることだ。……ふん、馬鹿馬鹿しい」
 最後の一語を、私はため息と共に吐き出した。

 十分後。
 亜空間跳躍ワープ
 そして………

 我々は皆、呆然とした。
 そこには、何も無かったのだ。
 太陽よりもずっと巨大な恒星が明々と燃え上がっているはずのそこには、ただ黙り込んだ暗黒があるだけだった。
「馬鹿な。十光年地点では、あんなに美しく……」
 言いかけて、絶句した。
 そうだ。美しく輝いていた。不自然なほどに。
 唐突に、私は思い出した。
 恒星は、爆発してその姿を消す。その寸前に、最も美しい光を放つというのではなかったか。
超新星スーパー・ノヴァ、というやつか」
 ……無駄足だったのか。
 一気に脱力感が襲ってきた。
「どうしますか、船長」
 問われて、私は力なく答えた。
 帰ろう、と。

 旅の帰途は、それは長く感じたものだった。
 その旅も、だが、ようやく終わる。
 我々の目指す十光年ほど先に、懐かしい我々の太陽が、神々しいほどに美しく輝いていた。

 赤く、眩しく、煌々こうこうと…………

-End-
Lust Revise 2004/11/17

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